胸騒ぎの『潮騒』読書会!
5月25日(日)、第16回読書会を行いました。
今回は、この読書会に参加するために埼玉から来てくださった方がいて、一同びっくり。歓声が上がっていました。
初参加の方3名をお迎えして、17名での開催となりました。
今回は、この読書会に参加するために埼玉から来てくださった方がいて、一同びっくり。歓声が上がっていました。
初参加の方3名をお迎えして、17名での開催となりました。
まずは自己紹介。
おひとりずつ、参加理由とおすすめ本を紹介していただきました。
参加者たちのおすすめ本
17名によるおすすめ本は、今回もジャンルや年代を超えて多彩でした。
なかでも印象的だったのは、課題本が三島由紀夫の『潮騒』だったこともあり、三島に関連した本を複数の方が選んでいたこと。
それぞれの視点から語られる三島像に、参加者の関心の高さがうかがえました。
そのほか脳科学系の本や、参加者のエッセイが掲載されたアンソロジーなどなど、幅広い本が並び、メモを取る手が止まらないひとときとなりました。
さて、いよいよ本日の課題本です!
課題本は三島由紀夫『潮騒』!
同じ表紙が17冊も並ぶと、まるで本の海に囲まれているような気分。
17人それぞれの『潮騒』には、付箋の数だけ想いがあり、読み込んだ時間の重なりが一冊ずつに刻まれています。
17人それぞれの『潮騒』には、付箋の数だけ想いがあり、読み込んだ時間の重なりが一冊ずつに刻まれています。
いよいよ「感想」タイム
6名、5名、6名と3つのグループに分かれて話しました。
Aグループの感想
- 美しい青春小説という印象で、『仮面の告白』『金閣寺』と同じ人が書いたと思えない。『潮騒』は序章で、このあとの続編で血なまぐさい出来事が描かれるんじゃないかとすら思うほどあっさりしていた。
- 新治には「男らしい」という表現が6回も登場し、たくましさを理想として体現させているように見える。
- 初江はあざとく、岩場に咲く一輪の赤い花のように際立つ存在。三島にとっての「男らしさ」と「美しさ」とは何かを考えさせられた。
- 三島の作風は一貫性がなく読者を弄んでいるよう。年譜と照らし合わせたい。
- 描写力がめちゃくちゃいい。人物の仕草や視線に関係性をにじませる。
- 女性をモノ扱いする差別的な表現には罪深さを感じ、時代の変化も実感した。
- 『潮騒』は他の作品よりきれいで、歌島という文明から隔絶された空間が高潔さを守っている印象。
- 新治が神社で「神様、どうか」と祈る言葉がこの作品の主題だと感じた。
- 「岸には幸福な少女が残った」という客観的な一文が効いていた。
- 新治がたまたま見かけた初江をここまで好きになる理由が最後まで分からなかった。
- 映画を観て原作を読んだが、後半に進むほど肩透かし。血の描写から困難な展開を期待したが、二人は順調に結ばれた。
- 悪役的な千代子や安夫も、結局はみんないい人。歌島の島影を兜に例えた描写から、波乱を期待したが、肩透かしで終わった。
- 初めての三島作品で、爽やかさが少女漫画のよう。新治は超かっこよくて一生懸命働くが、貧しさを気にしていたのが切ない。
- 母親が長男の新治を見下し、弟を称賛するのに違和感。学をつけて上に上がっていく生き方をいいものとして見ているんだと思った。
- 女性蔑視の印象もあり、女の美醜に意味を持たせる三島の価値観が見えた。シンプルな構成で、良くも悪くもひねりがない作品。
- 千代子が自己完結で立ち直る展開がすごい。新治は適当に言った言葉で人を救ってしまう。
- 安夫や千代子など、脇役たちの方が人間味があり魅力的に描かれている。
- 新治や初江が名前ではなく「若者」「少女」と属性で語られるところがある。人格を剥ぎ取られた書き方がおもしろい。男らしく清廉な若者であれば、新治じゃなくてもいいんじゃないか。
- 風景や自然を描写する表現はとにかく美しかった。
Bグループの感想まとめ
- 文章がとにかく美しく、自然描写に惹かれた。いつひどいことが起きるのかと構えて読んだが、実際はハッピーな青春ラブストーリー。物語としては物足りず、三島作品ならもっと痛めつけてくれると期待していた。
- 文章では違和感がある部分も、映像にすれば朝ドラのように自然に見えるのでは?映画の台本のようで、ドラマチックに映りそうだと感じた。
- 千代子の存在についても話題に挙がった。「新治と千代子がくっついてもうまくいかなかっただろう」という声もありつつ、「幸福な少女が残った」という一文が印象的だったという意見もあった。
- 物語の最後については、「誇り」というワードが至る所に出てきていた点が注目され、初江と出会ったことで新治も男らしく成長し、最後にはふたりが同じ土台に立ったのではないかという見方もあった。
- 初江の貞操観念ってどうなの、と思った。処女なのに、新治が焚き火の前で寝ているからといって乳房を出したり、「あんたも脱ぎなさい」と言って新治に期待を持たせたのに寸止め。手に入れられそうで手に入れられない女を演出している。乳房や処女といった言葉が繰り返し使われ、処女信仰に気持ち悪さを感じた。
- 新治が「考えるのをやめた」という部分について。考えるのをやめた新治に対して、危険を感じた。新治ももうちょっと頑張ってくれと思った。
- 引っかかりがないストレートなラブストーリーすぎて、ベストセラーに入っているのはなんで?と感じた。疑問に思ったことが少なかった印象。三島の中ではこの作品はどのような位置付けなのかが気になった。
Cグループの感想まとめ
- これまでの読書会の中で、残酷なシーンがなく読みやすかった作品だった。
- 潮騒はスルスル読めた。海に関する「健康」や「安らぎ」の表現が4回出てきたのが印象的。
- ロマンスとしての要素が強く、「あまちゃん」を感じた。
- 王道ロマンスを三島が書いているというギャップがおもしろい。特に『金閣寺』とのギャップが大きく、三島由紀夫はやっぱり美しいものが好きなんだなあと感じた。
- 初江さんの乳房の弾力の表現が印象に残った。
- 安夫が悪の役を担っていて、悪い奴がいないと物語にならないという構造になっていた。安夫の暴力的な言動に「男性のさが」が出ていた。
- 初江の写真が出てきたとき、「死亡フラグか?」と思ったが死ななかったのが衝撃だった。
- 千代子が噂を流してしまうあたりに「女性のさが」が出ているようにも感じた。
- 千代子さんはブスだったのかどうか、という論争が起きた。
- プロポーズのシーンの初江がよかった。彼女のしたたかさや自信家ぶりが話題になった。
- 初江が「火を飛び越えてこい」と言ったのは、どんな気持ちだったのだろう。
- 初江は全体として、おとぎ話のその先を匂わせるような結末の象徴になっているように思えた。
- 三島は女を描くのが上手くないんじゃないかという意見もあった。
- 千代子のあざとさ、そして新治の思わせぶりなところが印象的で、「罪な男」という声も。
フリートークで深掘り
一人ひとりの感想を聞いたあとは、フリートーク。
他の人の話を聞いてどう思ったか、など作品を深堀りしていきました。
作品に込められた神話的な構造や、三島由紀夫自身の内面との関係にも話が及びました。
たとえば、初江という女性が献身的な存在として描かれていること、男性は屈強に、女性はどこかおどろおどろしいものとして描かれていることから、三島の女性へのコンプレックスが表れているのでは、という意見も。「乳房」の描写が象徴的に繰り返される点や、新治に三島自身の理想像が投影されている可能性も話題になりました。
また、舞台となる歌島のモデル「神島」や、初江と新治の重要な場面が神社で起こること、人間を超えた力がふたりを動かしているような描写から、初江と新治が神話的な存在として描かれているのではという考察も。
とはいえ、最後の一文では、新治が自らの力で困難を乗り越えたと認識することで、神話から一歩抜け出し「人間」として歩み始めたようにも読めます。
また、こまやかな風景描写や小さな出来事が伏線のように散りばめられながらも、本筋に直接関係しないことも多く、その曖昧さがかえって物語に現実味を与えている、という声も印象的でした。
どこか引っかかる。なんだかざわざわする。
だけど、それを誰かと話すことで、じんわりと輪郭が見えてくる……。
そんな「胸騒ぎ」が、この読書会の醍醐味なのかもしれません。
次回もまた、作品と感情の波を一緒にたどっていけたらうれしいです。
ご参加くださった皆さん、ありがとうございました!
6月は『点と線』!
さて、次回6月22日(日)読書会では、松本清張『点と線』を課題本に開催予定です。
ご参加希望の方は、ご連絡ください!
お待ちしております。