「感情は作れません」— 私たち劇団天文座が追求する、体が心を作る演技の世界

劇団天文座
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こんにちは!劇団天文座の座長、森本です。


今日は、私たちが日々の稽古で大切にしている「身体化された認知」という考え方と、実際のワークショップの様子をお伝えしたいと思います。


「感情は作れません」— 私たちの演技哲学の核心

私たちの稽古場でまず最初にお伝えするのは、**「感情は作れません」**ということです。


多くの演技指導では「悲しい気持ちを作って」「怒りを表現して」と言われますが、これって実はとても矛盾しているんです。なぜなら、感情とは「出来事があった結果」でしかないから。悲しいことや嬉しいことを思い出して感情を呼び起こそうとしても、毎回うまくいくとは限りませんよね。


そこで私たちが重視しているのが、**「動きによって感情を作る」**というアプローチです。これは最新の科学研究に裏打ちされた、とても実践的な方法なんです。


「身体化された認知」って何?科学が証明する体と心のつながり

長い間、心は脳の中だけにあると考えられてきました。でも21世紀の研究で分かってきたのは、心は脳だけで完結するものではなく、体全体、そして体が環境の中で行う動きを通じて形成されるということです。


私たちの稽古でよく参考にする研究例をいくつか紹介しますね:


表情が感情を呼び起こす「顔面フィードバック仮説」

ペンを歯で加えて笑顔に近い表情を作った参加者は、漫画をより面白いと評価したという実験があります。つまり、表情筋の動きが脳にフィードバックされて、実際に感情的な経験を引き起こすんです。私たちの稽古でも、まず表情から入ることがよくあります。


パワーポーズの効果

胸を張って両手を腰に当てる「パワーポーズ」は、主観的な力強さの感覚を増し、リスクを取る行動に積極的になることが分かっています。稽古中にメンバーにこのポーズを試してもらうと、本当に堂々とした演技ができるようになるんです。


ジェスチャーが思考を形成する

手の動きは、話し手自身の思考を整理し、形成する上で重要な役割を果たします。ジェスチャーは「認知の最前線」とも言われ、思考の変化を先行して示すんです。


19世紀の革命的発見「ジェームズ・ランゲ説」

「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」
— この考え方が、私たちの演技論の基盤になっています。感情は身体反応の後に生じる、というこの理論を実践に活かしています。


動きが評価に影響する

対象に近づく「接近運動」(レバーを自分の方に引くなど)は肯定的な評価を促し、対象から遠ざかる「回避運動」(レバーを前方へ押す、首を横に振るなど)は否定的な評価を促すという研究もあります。舞台上での俳優の動きが観客の感情に直接影響するのも、この原理なんです。


実際の稽古場から:ワークショップの詳細レポート

1. 「どうやったら彼女がいない男性に彼女ができるか」ブレインストーミング

この日の稽古では、まずメンバーを2つのチームに分けて、面白いワークショップから始めました。テーマは「どうやったらか彼女ができるか」。


チーム1のアイデア:

  • 料理を覚える(女性は料理上手な男性に魅力を感じる)
  • ファッションセンスを磨く
  • 趣味を増やして会話のネタを作る
  • 積極的に出会いの場に参加する

チーム2のアイデア:

  • まず自信を持つ(姿勢から変える)
  • 聞き上手になる練習をする
  • 清潔感を大切にする
  • なぜできないのか?→人見知り、消極的、理想が高すぎる

5分間という短時間でしたが、みんな真剣に、でも楽しそうに議論していました。このワークショップの狙いは、最後に**「客観がどれだけずれているか」**を実感してもらうこと。他人から見た自分と、自分が思う自分のギャップを知ることは、演技にとってとても重要なんです。


2. 自己紹介タイム:個性豊かなメンバーたち

新しいメンバーや見学者の方もいたので、改めて自己紹介をしました。私(森本、30歳、フリーランス)を含め、20代中心のメンバーが揃っています。ユニークな経歴の人がいるのも、私たちの劇団の魅力の一つです。


北海道から配信で参加してくれている方もいて、本当にありがたいです。


3. メイン稽古:「午前0時の忘れ物」シーンの演技練習

今回のメインとなる稽古では、赤川次郎さんの作品「午前0時の忘れ物」のパフォーマンスを行いました。


演出プロセス:

  • まず演出担当メンバーが場所のイメージを説明
  • 登場人物の立ち位置と基本的な動きを指示
  • 俳優たちが実際にやってみる
  • その場でフィードバックと調整

  • よく出る指摘:

    • セリフに意識が集中して、身体的な表現がおろそかになっている
    • 「もっと体を使って」→これこそ私たちの「身体化された認知」の実践
    • 表情、姿勢、呼吸、ボディランゲージがセリフと一致していない
    • 声だけ大きくても、体が伴わなければ「嘘」だと観客に見抜かれる

    フィードバック例:
    「今の怒りの表現、声のトーンは良かったけど、肩の力が抜けてたよ。怒ってる時って、無意識に肩に力が入るでしょ?その身体反応を意識的に作ってみて」


    「悲しいシーンだけど、立ち方が堂々としすぎてる。もう少し内側に縮こまるような姿勢にしてみたら?」


    4. 振り返りセッション

    稽古の最後には、必ず振り返りの時間を作ります。演出家もメンバーも、お互いの演技や演出について感想を共有。ここで大切にしているのは、「アウトプットすること」の重要性です。


    短期間でも、実際にやってみることでメンバーの成長がはっきりと見えるんです。演出家も同様で、このワークを通して演出家としてのスキルが確実に上がっています。


    「バービー」で体力回復
    私たちの秘密兵器(?)が「バービー」です。気持ちが沈んだらバービーを15回すると気持ちよくなる、稽古の合間にバービーをすれば30分頑張れる、という経験則があります。実際に体を動かすことで、気持ちもリフレッシュされるんです。


    演劇の枠を超えて:私たちの挑戦

    私たちは舞台活動だけでなく、様々なコンテンツ制作にも取り組んでいます。


    現在進行中のプロジェクト:

    • YouTube動画制作(「量より質」への転換中)
    • オリジナル楽曲制作・レコーディング
    • 各サブスクリプションサービスでの配信
    • ラジオドラマ制作
    • TikTokでの発信
    • 関西弁レッスン(新企画!)

    これらの活動は、私たちの演技論をより多くの人に届けるためでもあります。そして何より、メンバーが安心して創作に専念できる環境を作りたい。将来的には俳優やスタッフを**「社員化」**して、安定した収入を提供することが目標です。


    全国での公演も視野に入れていて、年間100〜150本を目標にしています。一公演あたり15〜20万円の利益を出すことで、劇団全体の経済基盤を強化していく計画です。


    最後に:体と心をつなげる日々の実践

    **「感情は動きによって生まれる」**という私たちの哲学は、演技だけでなく日常生活にも活かせると思っています。


    落ち込んだ時こそ、まず姿勢を正してみる。笑いたい時は、まず口角を上げてみる。怒りを表現したい時は、体全体でその感情を表現してみる。


    私たち劇団天文座は、これからも「身体化された認知」の探求を続けながら、演技の可能性を広げていきます。そして、この素晴らしい発見を、より多くの人と分かち合いたいと思っています。


    ぜひ、私たちの活動にご注目ください。一緒に、体と心のつながりを探求してみませんか?