第54回 活動報告

ことばのアトリエ in 田村市
作成日:
【活動報告】第54回 あおぞらの輪
 
 新規でご参加されたNさんは,本を読むこと自体が久しぶり.読書会の参加も「あおぞらの輪」が初めてらしい.

「文字ってこんなんだったなぁ…」

 という言葉が出てくるくらい「読書」から離れていたのだとか.そんなNさんの数年ぶりに触れた作品は,宮島未奈著の「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社).
「島崎,わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」「島崎,わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」.幼馴染(主人公)の島崎は,成瀬の思いつきに何度も振り回されてしまう.しかし成瀬の突き進む「背中」に島崎(私たち読者)は目を離せない.失敗など恐れずにずんずんと我が道を進んでいく姿に,Nさんは挑戦する勇気を貰ったらしい.

 今回も印象的だったおふたりの本を,この場で紹介させていただきたい.

📚 勅使河原真衣「職場で傷つく」(大和書房)
 
 この間,「あおぞらの輪」の仲間と共に,「働く」をテーマの読書会を開催させてもらった.思いつきのイベントだったにも関わらず参加者はなんと9名.「働く」はそれほど関心の高いテーマだったらしい.その中でも高い関心を示していらっしゃるKさん.これまで「仕事」や「働く」がテーマの本を会の中で紹介してくださっていた.
「『職場で』傷つく」.「働く」における「傷つき」は,「その場その場の即時的な人間関係だけではなく,職場全体の構造によって起こるもの」という視点を提供してくれる本らしい.著者の勅使河原真衣さんは,東京大学大学院にて「個性を活かし合えるような組織開発」をご専門に研究を重ねている.近年会社を立ち上げ,企業や学校,病院などの組織開発の支援に注力されている.職場で起こる「傷つき」の背景にある「能力主義」の風潮に,ちゃんとメスを入れてくれているのがとても有り難い.
 Kさんは,気になった本の1節は書き留めながら読み進めるタイプらしい.今回も分かりやすく紙1枚に(かわいいイラスト付き)で整理をされていた.そして「働く」ということに人一倍悩んでこられたからこそ,その発表には熱が篭っている.「傷つき」とは?どうして「傷つき」が起こるのか?どのように予防し,どのように治療することができるのか?今の「あおぞらの輪」の皆さんが欲している視点を届けてくれているように思う.

📚 G.A.メノフシチコフ『シベリア民話集』(岩波書店)

 前回「京都文学フリマ」での熱気を運んでくれたTさん.今回は,なんとシベリアの民話を持ってきてくださった.またどこからそんなものを笑.関心を通り越して呆れるしかない彼の選書に,結局心を奪われてしまうのだ.

【作品の見どころ】(Tさん作成の資料より)
 本作はアジア・エスキモーの民話.アジア・エスキモーはエスキモー・アウレト語族に属し,ベーリング海に面したチュクチ半島沿岸部で生活している.旧ソ連時代の1979年の統計では約1500人.
『オーロラになった若者』は,1940年にチャプリノ村のギムニエという男性が語り,息子タギカクが記録,ソビエト科学アカデミー言語学研究所のG.A.メノフシチコフがロシア語訳した.
 シベリアでは,月を人間の生命と結び付けた伝承が広くみられるが,オーロラと結び付けた話は希少だという.冬季に空一面に広がるオーロラを見ることができる局地ならではの民話と言える.

 民話や神話は,私たちの誰かが持ち出さないとなかなか学びの場面に現れにくい領域.Tさんはいつものごとく,興味の赴くままに掘り出したものを場に置いてくださった.最後にお話されていた「日本の神話とギリシャの神話に同じ構造のものがある.もしかすると,ある地方の話が東西に広がっていったのでは?」という考えは実に興味深かった.日本固有だと思っていた物語が,実は別の国のものと繋がっていたなんて.ロマンしかない.

⭕️最後に…
 今回初めての読書会参加だとお話されるNさんは,とにかく「どうしていますか?」「教えてほしいことがあるんですけど…」と問いを投げてくれていた.「集中力が続かないんですけど…」「電子書籍ってどう思います?」「承認欲求ってなんなんですかね…?(今回の哲学対話のテーマになりました)」知識を提供してくれる人と同じくらい,問いを投げてくれる人の存在って有難い.Nさんが投げてくれた問いに,他の参加者の人は自分なりの体験をお話される.投げかけ,応える.些細なことかもしれないけど,今回の「あおぞらの輪」は,間違いなくNさんの問いのおかげで様々な経験が交差し,場に知を生み出した.問いを投げてくれる人の存在が大きい.

📚Tissoria・あおぞらの輪📚

#対話 #思考 #関係 #場 #物語